Last Updated on 2025年7月9日 by 渋田貴正

合同会社の業務執行社員とは?

合同会社では、「社員」という言葉で出資者全体を指しますが、その中でも会社の業務を実際に執行する立場の社員は「業務執行社員」と呼ばれます。業務執行社員は、取締役のいない合同会社において、株式会社で言えば取締役に相当するポジションです。

この業務執行社員を新たに加入させる場合、定款の変更や登記、さらには税務面の検討が必要になります。株式会社と異なり、合同会社では加入時に出資や登記の要否、定款の変更が密接に関連しているため、事前の準備が非常に重要です。

定款には業務執行社員の住所・氏名の記載が必須

合同会社では、定款に「社員の氏名(または名称)および住所」を記載しなければなりません(会社法第576条2項)。この「社員」の中には、当然、業務執行社員も含まれます。したがって、業務執行社員を新たに加入させるには、定款の変更が必要になるのが原則です。

また、合同会社では、出資と経営が一致しており、出資者=経営者という構造のため、定款の記載事項にもその情報が明確に求められています。

業務執行社員の加入には総社員の同意が必要?定款で緩和できる?

合同会社の定款を変更するには、原則として総社員の同意が必要です。業務執行社員の加入には、出資と定款変更を伴うのが一般的なため、社員全員の同意が求められるケースが多くなります。

しかし、定款に特別な定めを置いておけば、定款変更の要件を緩和することができます。たとえば以下のような記載がある場合には、全員一致でなくても加入手続きを進めることができます。

  • 「定款の変更は代表社員の決定によって行う」
  • 「定款変更は、総社員の〇分の〇の同意により行う」

このような定めを設けておけば、将来的な業務執行社員の加入時にも柔軟に対応できます。

業務執行社員の加入パターンと登記の違い

業務執行社員の加入には、大きく分けて以下の2つのパターンがあります。

パターン 内容 資本金の変動 必要な登記手続き
① 出資による加入 新たに出資して業務執行社員になる 増加する可能性あり 業務執行社員の変更登記+(必要に応じて)資本金の変更登記
② 持分譲渡による加入 既存の社員の持分を譲り受けて加入 変動なし 業務執行社員の変更登記のみ

① 出資による業務執行社員の加入

新たに出資をして業務執行社員として加わる場合は、その出資額を資本金に組み入れるかどうかが問題となります。合同会社では、出資額のすべてを資本金に入れる必要はなく、資本剰余金として処理することも可能です(会社計算規則第171条)。

資本金が変更となる場合は、業務執行社員の変更登記+資本金変更登記の両方が必要になります。

② 持分の譲渡による業務執行社員の加入

既存の社員から持分を譲渡してもらい、業務執行社員として加入する場合は、会社の財産構成や資本金に変動はありません。この場合は、業務執行社員の変更登記のみで手続きが完了します。

株式会社における株式譲渡に近いイメージですが、合同会社では持分の譲渡にも原則として総社員の同意が必要です。

税務面の注意点:出資と持分譲渡の違い

税務の観点からも、出資と持分譲渡では取扱いが異なります。

  • 出資による加入
    資本金が増加する場合は、資本金1,000万円を超えると消費税の免税事業者の要件に該当しなくなったり、法人住民税の均等割が高くなるリスクがあります。
  • 持分譲渡による加入
    譲渡価格が時価とかけ離れている場合には、贈与税のリスクや、譲渡所得として所得税の対象になる可能性があります。

また、将来的に事業承継などを想定して業務執行社員を加入させる場合にも、相続税評価や贈与税のリスクを含めたトータルの検討が必要です。

合同会社の業務執行社員の加入には、定款変更・登記・税務の三つの側面が密接に関わってきます。加入の形や出資の方法次第で必要な手続きやコストが変わってきますので、事前に定款の整備や社内の同意手続きを確認しておくことが非常に大切です。

当事務所では、登記実務に精通した司法書士としての立場だけでなく、税務リスクを見越したアドバイスが可能な税理士としての視点も持ち合わせています。

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